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聖杯戦争初夜

 

 Interlude

 

 さて、と私は立ち上がった。

 私、黒桐鮮花は友人の藤乃とともに冬木市に来ている。

私は自分の技量試しのつもりでこの街にきた。

 何よりも困ったのは私のサーヴァントだ。ランサーというものだ。槍兵としては最高のかの英雄、クー・フーリンだ。不満はない。むしろ嬉しいのだが―――

「マスターは一流であるが、それは一部だけだな。ルーンなら残念ながら俺のほうが上手だ」

 なんて見透かされていて頭にきていた。

 それは事実だし、否定も出来ない。困ったものだ。せめてサーヴァントを上回る魔術くらい見につけておきたかったけど彼は残念ながらルーンの最古参のものといっても過言ではない。

 限りなくオリジナルに近い魔術に後世のものは勝てない。

 純度が桁違いなのだ。亜流は所詮劣化品にすぎない。

 何より私には一本も魔術回路がないのだからこの英霊を償還できた時点で奇跡といえたかもしれない。

 私自身は幹也も式もラブラブって感じでさ、いけ好かない気持をこの戦争に押し付けて藤乃を巻き込んできたんだけど、師曰く、「ちょうどいい機会だから遊んでおけ。その女がいれば死ぬことはないだろう。オマケもつけてやった」なんて言って弟子を死地に向かわせた。

 もとい、向かわせやがった。それも平然な顔をして。

 理由を聞くと、「戯言を楽しむのも人生だよ」なんていった。その戯言に付き合わされる私の立場はどうなるんだろう。と聞けるわけもなく気がつけば目の前の男を召喚してはや3日、他のマスターは見つからない。

私はため息を吐きながら今日は深山町の方を探索することにした。

無論、夜ではなく昼だ。

理由は単純。

探索だけなら昼がいい。夜は気兼ねなく戦えるが昼なら戦う輩などそういるはずもないと踏んだからだ。

私は藤乃と深山町を周り始めた。

 魔力殺しの指輪を貰い、それを装着してだけど。

 だから私が相手に魔術師と気づかれることは多分、ない―――はずだ。

 私はほかのサーヴァントのことも気になったが、まずは前回の聖杯戦争のことを調べることにした。

 

 Interlude out

 

 私が目を醒ましたのは自室のベッドだった。

 体には疲労感。

 ああ、夢じゃないんだ。

 昨日のことを思い出す。

 捻れた剣を持ち、弓でそれを撃ち放とうとする青年―――衛宮士郎。

 彼がああなった理由は私が知るわけも無い。あいつがどうなったかなんて関係ない。関係ないのに―――かつてのアーチャーを思い出してしまう。

 あいつは―――あのアーチャーだったんだと、思うと絶望したくなる。

 あの言動、この街を知っていたような口の利き方、態度―――間違いなく士郎だった。

 私は思考を整理しようにもどうも混乱するだけだ。

 今はこのことを保留しよう。

 私はベッドから這い出て居間に向かった。

 そこには相も変わらずセイバーが茶をすすっている。この男は霊体になるのをどうも嫌がっているようだ。

「やあおはようマスター」

 ええ、と私は言って彼の正面のソファに座る。

 私は紅茶をのんびりと飲む。

 時計の音が五月蝿く思えるほど二人の間には会話が無かった。その静寂を破ったのはセイバーだった。

「してマスターよ、昨日の男は何者だ? マスターは知っているようだったが?」

 ええ、そうよ、と私は答える。

「あの男は―――」

 なんと説明すればいいんだろう。かつてのサーヴァント? かつての魔術師であるときの相棒?

「あの男は、私と一緒に前回の聖杯戦争で戦った男よ」

 うん、言ってみてそれは正しいと思った。

「その男がなぜマスターに攻撃を?」

「多分―――私がこんなものに出ていること事態が許せなかったんでしょ」

 溜息すら吐くことは無い、精神的疲れは体を侵す。

 その様子を見て何を思ったか、セイバーは

「ふう、マスターよ。君がどのようにこころを痛めているかこっちは知ったことではない。俺は俺でいろいろと調べさせてもらうことにするが、良いか?」

「―――いいわ。情報収集ということならね。危なくなったら即、引き返すのよ。って昼は大丈夫か…… まあ私も自分の考え、整理しておくわ。しばらくしたら私も家を出るからそのときにでも会いましょう」

 私はとりあえず家の中にほかに役立つものがあるかどうか調べ始めた。

 

 Interlude

 

 鮮花は藤乃と共に深山町を歩き始めた。

 交差点のすぐ脇の家にKEEPOUTの字が見えた。

 パトカーも幾台かとまり、周囲は物々しい雰囲気に包まれている。

「鮮花、これ」

 藤乃は震えるような声で言った。

「ええ、例のニュースのやつでしょうね。どこのサーヴァントかしら?」

 と、鮮花は歯を食いしばっていた。

「でも、私やっぱり許せません。人を、人をこんな風に食べていくなんて……」

 だけど、と鮮花は思う。藤乃はこれでもどうやらあの式と戦ったことがあるらしい。

 彼女はあの歪曲殺人の犯人と橙子から聞かされたとき、鮮花はパニックになりかけたが、式と幹也がそれを抑えた。

 それ以来、どことなく鮮花と藤乃には距離があった。

 それを聞いてからもう二年も経ち、ずるずると引きずり、藤乃は橙子の工房で働いてはいるが、幹也や鮮花とは違ったことを行っているらしく、その内容を知らない所為もあって余計鮮花はいらついていた。

「待って、藤乃。ちょっと調べるわ」

 鮮花はそういい、地面にしゃがむようにしてじっと家の周囲を見つめる。

 何かをさっと地面に描くが反応は無い。

「やっぱり……」

「どうかしたの? 鮮花」

「ここ、まるごと食べられている。大気中の魔力も地面のも、全部消えている。それもあの家だけじゃなくて、多分この周囲数件は確実よ」

 そういうと藤乃は吐き気を抑えるかのように口に手を当て、

「どうしてそんな―――」

 命の略奪に事件以来過剰といっても過言ではないほど藤乃は死を、理不尽な死を嫌っていた。

 その理由は単純だ。痛みを知ったからこそ―――それも心の痛みと自分の痛み、他人の痛みをあの事件と両儀式、黒桐幹也を通して痛切に理解したからだ。

 彼女はおそらくそれを知るのがあまりにも遅く、同年代の人間と比べても比類なきほどに世間知らずのお嬢様のような―――いや事実お嬢様であるのだが、傷つくことに対する恐れ、恐怖、なによりみずからが他人を傷つけていたことがあまりにも無感動だったからこそ深い悲しみを知っていた。

 藤乃は誰も罰することの無い、重い殺人という罪と戦わなければならない。それはおそらく彼女が死ぬまで―――だからこそ、藤乃はかつての自分に恐怖し、またかつての自分のようにこの事件を無感動に起こしているであろう人間を―――もとが人であったものを嫌った。

 そして、彼女はひそかに思っている。

 人間ではないものが無関係な誰かを―――それこそ私が殺した人間たちよりも多くの人間を殺すなら、それを止めることが、私が私に科すことの出来る罰だ、と。

 しかし、そのことを鮮花はよく思っていなかった。

 彼女は偽善的で、弱い人間が嫌いである―――それはどこか自分の兄も抱えている問題に近いものを感じているからだ。

 だからこそ、そのことは浅上藤乃にいうことはなく、胸のうちにしまっておく。

「で、ランサー。何か分る?」

『さあね。しか言えることは一つだ』

「何?」

『俺はこれをやったやつがいけ好かないようだ』

「同感よ。こんなことやるやつなんて私も嫌いよ」

『はっ、マスターよ。しかしこいつはとんでもないことになりそうだぜ?』

「とんでもないこと?」

『俺は―――いや俺たち(サーヴァント)はこいつの正体を知っているが知らない、そういう存在だってのは確かなことだ』

「……そう」

 鮮花は考え込む。

 基礎知識は橙子を通して知ってはいたが、ここまでのものとは思いもしなかった。

 過去の英霊をサーヴァントとして召還するシステム。

 願いをかなえる聖杯。まるで夢物語のような魔法がごとき大魔術。

 いや、むしろこれは魔法ではないかと思う。どこか―――教会にある貧相な小さな聖杯ではなく何かしら核になるものがあるのではないか、と疑ってしまう。

 これがもし、本当の聖杯なら核はないし、むしろサーヴァントシステムすら不要だ。

 おそらくはこれは魔術を用いた大儀式。

「 」をめざすために至る道の一種。

「な、分けないか。師匠すらたどり着けないそんなものがそこらへんにごろごろ転がっているわけ無いもんね」

 しかし鮮花は両儀式のそれを知らなかった。故にその点に関しては幸せであると断言できた。

『……おい、マスター』

 ランサーの声がした。

「何?」

『あそこを見ろ。あの二人だ―――あれは魔術師じゃないのか』

 言われてそこを見ると、珍しい格好をした二人の女性がたっていた。

 白い服を身に纏った赤い眼をした女性たち。

 そのうち一人が近づいてくる。

「あなた、魔術師でしょう?」

 と、その女は表情を変えることもなく言った。

「私達はこの聖杯戦争に参加していますが、あなたも参加しているんでしょう? そこでひとつ、言うことがあるわ」

 なんと傲慢なマスターか、と黒桐鮮花は思った。

「この戦争は私たちが勝ちます。あなたには無理です。この場でおとなしく令呪を差し出せば見逃しましょう」

「ふん、そういわれて実際に逃げたサーヴァントやマスターはいたのかしら? 私はその人たちと同じ答えを言うと思うけど?」

 不敵な笑みを鮮花はした。

 無論、虚勢だ。鮮花は気づいている。この目の前にいる女は自分なんかと比べ物にならない、と。彼女達の魔術回路はおそらく蒼崎橙子をゆうに超えるだろう。

だが、それでも鮮花は思う。この女は欠陥品だ。だから私にかなうはずが無い、と。

 魔術回路が多いのは、それはホムンクルスだからだ

「リーズリットだったかしら? それともセラ? 聖杯の失敗作がいきがるんじゃないわよ」

と、言い切った。

彼女たちのことは手持ちの資料にあった。アインツベルンの前回の聖杯戦争のサポートをした人形―――失敗作のことは。そして同時にその性能も知っている。

「で、あなたたちは二人でやっと一体のサーヴァントを支えているように見えるけど? どうみてもやっとにしか見えないわ」

 そのとおりだ。鮮花はいかに彼女たちが多くの魔術回路を有しているとはいえ、それが完全に開いてはいないのだ。それも開いた形跡は無い。むりやりサーヴァントを酷使しているのであろう。安い挑発だが掛かればこちらの勝ちだ。

「しかし、あなたはそれでも私達には敵わない。私達のサーヴァントは最高のクラス、セイバー、そして何よりあなたはランサーでしょう?」

「ええ、そうよ。それも聖杯候補の力の恩恵かしら?」

 精一杯虚勢を張る。

「来なさい。夜まで待たない。そこの森林は人の目にはつかない。戦いましょう」

「待ちなさい。あなたたち。ここの事件にあなたたちは―――」

「そのような下種なこと、アインツベルンは行いません」

 どうだか、と心で鮮花はつばを吐いた。

 魔術師とはそういうものだ。正直者は死に、狡猾で人を騙す者が勝利し、生き残り、自らの血族にその知識と「 」へ至る為の道を残すのだ。

 鮮花は藤乃をつれ、アインツベルンの森に程近い場所まで来た。

「見せましょう。私達のサーヴァントを」

 リズとセラは互いに顔をあわせ、簡易な詠唱を行った。

 すると、目の前には巨人と形容しても語弊は無い鎧を着た男が立っていた。

「ランサー、出て」

「はっ、やっと戦いかマスター」

 そういってランサーは現れる。

「知っています。あなたを」

 とリズ。

「私も知っています。彼を」

 とセラ。

「何だと?」

 その言葉に魔鎗を持った男が顔をしかめた。

「まさか、俺がこのでかいやつに負けるとでも?」

ええそうです、と二人の女性は言い切った。

「おもしろい。ならば戦おうではないか、セイバー!」

(見せてもらいましょうか、あそこまである自身の源ってやつを)

 鮮花はそう思いながらもそっと藤乃の横に行く。

「藤乃、いい?」

 まだ、だめと彼女は言った。その言葉に鮮花は顔をしかめる。

ランサーは槍を構え、跳ぶ。それは人の域を超えた豹のごとき速さ。

 やれやれと溜息を鮮花は吐いた。

 猪突猛進してどうするんだ馬鹿、と内心鮮花は思った。

「………」

 一方セイバーは無口だ。像のように微動だにせず、神速で飛ぶランサーを見下ろしている。

「覇!」

 そう叫ぶなり、槍を瞬時にその巨人の眼を貫こうとする。

 その、槍はあまりに早く、重い。一瞬の赤き閃光。

 様々な方向からの点は幾重もあり、回避は困難。

 確実に、その槍はセイバーの頭蓋を貫いた。

「――――なっ」

穿孔を作るはずだったのに、見事、それは空振りする。セイバーの顔に傷ひとつなく、やや男として長いぼさぼさの敵の髪は風に揺れた。

「くっ!」

 瞬時にランサーは槍を引いた。

 再度、槍を連鎖させる。絡み合う赤い軌跡は槍兵の名に相応しい。

 しかし、それすらもセイバーは回避する。

 ギアを上げ、速度を増し、大気すら焼こうとする次撃を加えようとするが、セイバーは手にした剣―――正しくは棍棒に近い形をした粗く削られた岩のようなものを力強く握るなり、瞬時にそれを天に向かって振り上げ、力任せにランサーに振り下ろす。

 それだけの動作。

 ランサーは両手で槍を構え、その剣を防ごうとする。

(馬鹿が、単純なんだよ!)

 だが、ランサーは眼を見開いた。これが失敗だったと気づいた。

「愚かなり、ランサー。貴様は戦いを見誤った」

(――――馬鹿は、俺だ!)

 ランサーは毒づいた。

 刹那、剣は歪み、幾重もの剣がランサーを襲う。

「――――――射殺す(ナイン)、」

 セイバーは口を開く。

百頭(ライブズ)

 静かに告げるは、真名。

 あまりにも重々しく、神託のように男は言った。

 音もなく、気配もなく、殺意もなく、豪快にして、匠。

そして、それは匠にして豪快。

その一撃は必ず当たる。今まで当たり続けてきたのだ。

この宝具はけっして単純な武器や概念武装ではなく、飽くまで技。

いかなる武器であろうと彼は使いこなし、確実に対象に破壊を与える。

 いや、この技自体が概念武装にである。

 なぜなら、敵を倒す、というのがこの宝具の特性。

それも九つもの攻撃を同時多重で起動する。元は幾重もの首を持つ化け物の首を同時に落としたことからその名はある。

ならばそれはランサーの持つ槍とほぼ同格の性能を持つであろう。

こちらが先に心臓を刺しているのに対し、向うは一撃が九撃。

セイバーが言った瞬間ランサーの肩口にセイバーの斧剣が接触した。

 斧剣が容赦なくめり込んだ。

「がっ!」

 口からランサーは血を吐いた。内圧で血が溢れたのだ。

 受けきっていたはずの魔槍をすりぬけてそれは来たのだ。

「きっ、聞いたぞ。射殺す(ナイン)百頭(ライブズ)って言いやがったな……」

 そういうランサーは呼吸すら困難。片目を閉じ、目の前の男を残った眼で睨む。

「て、てめえ、ヘラクレスかよ」

「………苦しめるつもりは無かった。もっと安らかな死を与えられるものならば与えていた。さらばだ。名もなき槍兵」

 肩から肺まで一気にその剣はランサーの体を切ることもなく、押しつぶしている。

 再度、攻撃を加えようとセイバーは瞬時に斧剣を振り上げる。

 ランサーの肩口から剣が抜けたとき彼はがくりと膝をつく。

「戻ってランサー! 速く」

 一つ目の令呪を消費してランサーを霊体化させる。同時に鮮花の腕に激痛が走った。

 セイバーの振り下ろそうとした剣は地面にめり込む。

 その瞬間、石礫が鮮花に向かって飛んできた。

 眼を開け、セイバーの振り下ろした剣先を見る。

 その地面はえぐれ、小型のクレーターのようになっている。

 それも一つではなくそこを中心に大小さまざまな穴が計九つ地面に穿たれていた。

「もう、終わり?」

「ランサーのマスターよ」

 交互にリズとセラは言う。

「ええ、今は逃げるわ。そんな化け物、見たこと無いわ」

 と、凛は言った。

「まさか、あなたを逃がすとでも?」

 二人は声を合わせ、言う。

「残念だけど、こんなところで死ねないわ」

 藤乃、と小さい声で鮮花は言った。

 こくりと、藤乃はうなずいた。今の攻防は一分にも満たない。勝利の可能性は低い。ここに残されたのは中途半端な魔術師と超能力を持つ女だけ。

 藤乃は思う。人でなくて良かった、と。

 だから告げる。

「――――凶れ」

 すると、周囲の木々が瞬時にねじ切れる。

 粉塵が舞い、周囲は大鋸屑や大量の葉で覆われ、リズとセラは鮮花を逃した。

 

 残ったのは地面に穿たれた穴のみであった。

 

 Interlude out

 

 さて、と遠坂凛は体の間接を慣らしながら立ち上がった。

 彼女は魔術的物質でなにかしら切り札になるようなものを探している。前回もしていたが、今回は彼女自身が入るくらいの大きさの宝石箱に体を埋めながら捜していた。

「まったく宝石はどれも魔力篭ってないじゃない!」

 と愚痴を言いながら顔を上げる。

「あ、そういやあいつまだ帰ってきてないな。ちょっと聞いてみるかな」

 そう、セイバーはいったきり帰ってきてない。凛はそのためもあってか心置きなく屋敷内の魔術関連の書物を洗いざらい調べなおしている。そのことで分ったのは家の家宝としてかの魔法使いが残していった宝石があるということを突き止めた。

「前回のペンダントとは違うらしいしね」

 あれはどうやらあくまで、貯蔵されていただけのタンクに過ぎなかったらしい。

「アインツベルンが設計図を持っている? 駄目じゃん。大師父も役立たずなものおいていくわね」

 と、愚痴をいいながら黙々と探している。

「おい、マスター!」

「まったく、他に役立つものないのかしら」

「マスター」

「え、あーこれ、懐かしい。たしかこれは……」

「おい、マスター!」

「何よ、五月蝿いわねえ! 誰よ」

 凛が振り返るとセイバーが頬を指で掻きながら、困った顔をしている。

「話をしてもいいかな? マスター?」

 ええ、と凛は答える。

「マスター、一応、町をあらかた見て回ったが、山に寺があるだろう? あそこに結界が貼ってある。いくら僧が集まっているからといってあの結界は尋常ではないぞ」

 と、セイバーはいうが凛は結界よりもまずセイバーが対魔の知識を持っていることに驚いた。

「あんた、なんで僧が結界張るの得意だって知ってるのよ」

 そういう生まれなんでね、としれっと彼は言った。

「まあ、いいわ。で、他に怪しいところは?」

 セイバーは鎮痛な顔になり、言葉を選ぶようにいった。

「いいか、マスター。大変なことになっている。サーヴァントであるか、どうかは疑わしいが―――何者かがこの街の魔力を食い尽くそうとしている。それも大気、地面に飽き足らず、人を、それも建物ごと喰らい尽くしている。世間ではただの行方不明事件になっているようだが、それも長くは持つまい。敵はすべてを丸呑みするらしい。あれに俺は対処できるかすら怪しい…… あれほどの魔力がなぜ必要か、わからない。それにほかのマスターも気づいているようでその周囲に魔術師の気配は皆無だった」

 その言葉に凛は、

「―――気に食わないわね、それ。人の霊地穢して何様のつもり?」

「ああ、その意見は同感だ、マスター。他のサーヴァントを倒すことも大事だが、このままでは聖杯戦争自体―――この街がやつに食われかねない。どのような姿をしているか分からないが、しかしあの寺と食らうもの、今はこの二つを警戒するべきだと俺は思う」

「状況判断能力が高いわね、あなた。それも私の性格にそって、のだけど」

 皮肉げに凛はいう。

「まあ、それが戦闘において大事だからな。さて、マスターよ、どうする?」

 セイバーは言葉を誤魔化す様に言い返し、凛は考え込んだ後、

「そうね、じゃあ、他の情報を得たいし、今からある場所に行くわよ」

 凛はそういうなり、支度を始める。

 

 Interlude

 

 男はそこで眠っている。

 夜が来るまで、その思い出深き場所に眠る。

 

「―――問おう、貴方が私のマスターか」

 

 思い出す夢は、初めての出会い。

 あまりにも幻想的な彼女は真実幻想に過ぎず、男にとって最初で最後の女性であった。

 

「―――貴方の剣となり、その敵を討つ」

 

 彼女のように強くありたい。彼女のように戦いたい。彼女のように―――たくさんの人々を、例えそれがどんな方法であっても、いつか彼女とも出会うことがあるとして、恥ずかしくないように生き続ける。そう決めた。

 

 だから世界と契約した。

 己が抑止力になり、生涯を通して霊長を救い続ける、と―――

 

 だけど、それは間違っている。

 何がどう間違っているのか分からないし、何より、自分の行いは正しいと信じ続けていた。それはどんな形であれ、世界は救われていた。

 例え、自分が救われないとしても、だ。

 たとえば、昨日助けた家族に背から襲われても、

 たとえば、殺した相手が自分を恨みながら死んでいっても。

 

 男は、目の前の魔方陣を見て思い起こす。

 初めての―――いや、数年ぶりにあの時、行った投影魔術。

 彼女の剣を作り出し、手は爛れた様に黒く変色し、それはなかなか落ちなかった。

 あれから数年経ち、世界に仇なす外れたモノとの戦いのとき己のすべてを投影した。

 そのとき、全身が焦げるように黒くなり、対照的に体毛の色素は抜け、そして目の周りには幾重もの剣、己の心象世界が文字通り、世界に『投影』されていた。

 敵はこれを「固有結界」と言い、なるほど、とその正体も知れた。

 それ以来、こと、投影に関しての魔力は消費するも以前のような全身が割れるような感覚は極端に減った。

 ある場所であった魔術師曰く、回路が完全に開ききった、と男は言われた。

 しかし、彼はあれ以来、カリバーンの投影に成功していない。

 やはり、あの記憶は彼女の鞘が持っていた記憶のためだろうか、と思考するがその答えは彼女とともに永遠に消え去っていた。

 男は思う。

 理想郷(アバロン)があるとすれば、それは誰もいない世界だと。

 人を生かすために殺す、人を殺すために生きる。正義のために人を殺す。人のために自分を殺す。自分を殺すために心を鉄のようにし、そして―――世界のために虐殺者になる。

 しかし、人がいなければ何もない。正義も悪もない。

 自分がヒトでいる限りは自分の信じた■んだ道を進むしかない。

■んだ道。

 とんでもなくそれはひどいものだ。

 

 と、扉がたたかれた。

 この暗い土蔵の扉をかつて叩いていた少女を思い出すも―――今、彼女はいない。

 

 

 

「―――Vier Stil Erschiesung……!」

 

 瞬時に土蔵の扉は男の思考とともに吹き飛んだ。

「………遠坂」

 衛宮士郎はその主を見て呟いた。

 

Interlude out

 

「さて、どうしたものかな」

 凛は衛宮家の土蔵の前に立って呟いた。

「マスターよ、他の魔術師、それも以前俺と戦ったものと会うとは一体どういう了見だ。皆目見当がつかない。それに俺はまだ彼については一言も―――」

「うるさいわねえ、男の癖に。それでも英霊なの!?」

 凛は思わずセイバーに対していう。

「うむ、しかし……」

「いい、セイバー。あの男はあれでも私と同じ目的であいつと戦ったこともあるし、第一、私はあいつの師匠なのよ。それなのに人に挨拶もせずいきなり攻撃を仕掛けてきたのよ」

「それは……」

 セイバーは反論しようとするが、

「だから!」

 凛は一度、大きく言い、

「………だから、あいつにあって話をつけたいのよ」

 歯を食いしばって、悔しそうな顔で凛は言った。

 

「―――Vier Stil Erschiesung……!」

 

 凛がそういうと魔力の塊が土蔵の扉を吹き飛ばした。

 扉が散った先には男が座禅を組むように床に座り込み、じろりと、こちらを見上げていた。

 アーチャーのような外見になった衛宮士郎。

 凛は彼が英霊になるであろうことに対し、思う。

(………これも、私の責任なのかな)

 だが、今は自分を救うのは後回しにしなければならない。

 なぜなら、この街全体が食われかけているのだ。

 だから、彼女は魔術師の仮面をかぶる。

「衛宮士郎、魔術師としてこの土地の管理人遠坂凛は協力を要請します。この街を食らおうとするものをともに滅する、と―――」

「残念だが、断る」

 士郎は短く言った。

「何故? 士郎、貴方に逆らう権利は―――」

「有る」

 彼は断言した。

「俺がこの街に帰ってきた理由は聖杯を壊すためだ。こんなくだらない物があるからいくつもの悲しみが生まれる。こんなくだらないものがあるから―――」

 彼女(アルトリア)は、間違った道を選ぼうとした、という言葉を飲み込んだ。

 皮肉、としか言いようがない。形は違えど、彼らは共通の目的で動いていて、だからこそ協力はできない。

士郎にとって凛が参加している時点で彼女は彼にとって敵であり、そして彼女は―――人間としての遠坂凛が望んだことと魔術師としての遠坂凛の立場のギャップが激しすぎた。

「士郎、あなたに私言ってないことがあるわ」

「………」

「私が今回、なんでこの聖杯戦争に参加したと思う?」

 士郎は考えを一巡するなり、

「勝ちたいから―――それが遠坂の存在意義だから―――だろ」

 実にくだらないといった顔で士郎は凛を見た。

 それは諦めに満ちたあの顔。

 凛は首を左右に振り、

「それはもうあのときに終わったわ。今の私は、貴方と一緒よ。こんなくだらない物なくしてしまいたい。あなたは自分なりの理由があるからだろけど、私の理由もあなたと多分似ているわ」

 何か堪えるような―――見たこともない凛の顔。

 桜が多分そのために行方不明になったかもしれないから、という言葉を彼女は飲み込む。

 士郎は桜のことすら知らない。

「士郎、私はね、今自分を救いたいの。私はいままでいろんなものを仕方ない、仕方ないって見捨ててばかりいたって今更、気づいた」

 それはきっと衛宮士郎も見捨てていたのかもしれないと、口には出せない。それでも今は言葉を紡ぐしかない。

「いいえ、本当は気づいていたのに見捨ててきたのかもしれない。自分が自分の後悔のないようにやってきたって思い込んでいただけ。自分が多分、一番苦しくない方法ばかり選んできて、そのつけがいまさらになってまわってきたのよ。心の贅肉なんて人に言えたもんじゃないわ」

 と、凛は言った。

「だから、もうこれ以上失いたくないから私は貴方にお願いする。一緒にこの街を喰らおうとするやつを倒して、聖杯を壊しましょう」

 いろいろなものを堪えに堪え、それでも彼女は無理やりに笑顔を作り出して手を差し出した。

「遠坂……」

 士郎は立ち上がり彼女の前に立つ。

 凛の顔は五年前のときと同じように輝いて見える。

 かつて、背の差はほんのわずかであった二人は―――五年という歳月を超え少年を男にし、少女を女にした。少女は男を見上げるように見ていた。

「らしくないぞ、涙なんて」

 と、昔と変わらぬ、しかしどこか空虚な笑みを士郎は彼女に見せた。

 すっと凛の頬に指先を運び、涙を拭く。

「うるさいわね、士郎。私泣いてなんかいないわよ」

 凛は笑顔で言った。

 

 だが、二人の顔からそういった感情は即座に消える。

 

 空気は凍りついている。

 土蔵の外、広がる庭に、それはいた。

 いつからいたのか、―――不明、

 気配もなく、――――――死んでいるようで、

 殺意もなく、――――――ただ消していただけだ。

 まして、空気の振動すら感じなかった。

闇に浮かび上がる、髑髏を模った面。

服は黒く、それはまさしく文字通り闇と同化している。

白い沙齢頭(されこうべ)だけがただそこに在るといった印象だ。

「セイバー!」

「あれはなんだ、マスター! サーヴァントか!?」

「遠坂、あれはいったい―――」

 そういう間もなく、敵は黒い何かを投げてきた。

 風切音すら後から来た程度。真実その黒い塊は影のように士郎と凛を襲う。

「くっ!」

 士郎はすぐさま前に飛び出し、

「―――投影(トレース)開始(オン)!」

 二つの双剣を投影した。

 投げられて来たのはダークと呼ばれるナイフ。

それを見事、迎撃する。

甲高い金属音で弾かれたダークは何処とも知れぬ場所へ消えていた。

 一方、凛の前に飛んできた短剣(ダーク)はセイバーの着ているコートが暴れだしそれを叩き落す。

 それはコートが自動防御したかのようだ。

「………」

 虚ろな白に穿たれた黒い穴からから哂う眼。

「貴様、何者だ」

 士郎は黒い影に対して言う。

「……我はアサシンのサーヴァントなり」

 それはまるで風のような音で声を発した。

 喉を介すことはなく髑髏じみたマスクの空気の音の様。

「何故ここに来た」

「知れたこと、我がマスターの命を受けたのみよ」

 嘲笑うかのように男は言った。

「なるほど、貴様のマスターはこの場にいない、ということは偵察か」

 士郎は影に対し、あくまで冷静に不敵に言った。

 その姿を見て凛はかつての己のサーヴァントと影を重ねてしまう。

 同時に彼がそのような言葉をすぐに吐けるくらい甘っちょろくない世界に行ったのだと知った。

「しかし、いやはや、なかなか愉快だな。サーヴァントシステムがエラーを起こしたのか、そちらの英霊自体がエラーなのかな?」

 アサシンはセイバーを見て呆れたように言った。

「なんだと?」

 セイバーは思わず言い返した。

「貴様らも知るだろう、セイバーはお前だけではないということを」

 そういうなり、影は闇に消える。

 三人はその場を動けない。

 どこに居るかも分らず、ただ周囲の気配を探るしかない。

 庭の木が一瞬動く。

 しかしそれはカラスだった、やつとは関係ない。

「おい、セイバー。やつはまだいるのか」

 士郎は問う。

「おそらくもういないだろう」

 セイバーは周囲を観察し、そう判断する。

「しかし、あいつはおかしい。最初から気配すら感じなかった。あれはサーヴァントであるらしいが、気配を絶つことができるらしい。問題はさらに増えたようだな、マスター」

 と、セイバーはため息を吐いた。

「ところでそこの魔術師よ、しばらく休戦と言うことでいいのか?」

 セイバーは士郎に尋ねた。

 

 Interlude

 

 魔術師は走っていた。

 

 名も無き魔術師。

彼はこれより真実、名も亡き魔術師になる。

 

 彼はマスターである。

 聖杯戦争では中期の段階でバーサーカーを召還したが、彼に扱いきれる器ではなく、いつ自滅するか分からない状況であった。

 全身にある令呪が叫びを上げていた。

 彼はバーサーカーを制御するため、かのサーヴァントを令呪よりさらに重層的にルーンを擬似令呪として自分に掛けていた。

 魔力量、技術、それらはBランクの魔術師であった。

 己の師は極東の地、そう、この日本で六年前に死んだ。

 その理由探しも相成って彼は来ていた。同時にやはり魔術師の端くれである彼は欲深く、臆病であり、世間知らずでもある。それは師に似ていると言われたことがあるがその度に自分はとうに師など越えていると豪語していたがついぞ色すら与えられることは無く、名誉のためにこの戦いに参加したに過ぎない。

 師の名をアルバといった。

「貴様、どこの魔術師だ。こんな、こんな、こんな――――!」

 男は叫んだ。

 バーサーカーの真名を申公豹というが、それは全身をイカヅチで覆われている。

 それは自動発動宝具であるため狂化されていようと関係は無い代物であったが、しかしバーサーカーはいまやただの肉塊になりつつある。

「来るな、来るなーーー!」

 彼は臆病者であった。

 他のマスターたちが自滅するのを待っていればもしかしたら生き残れたかもしれない。それ相応の実力を持ったサーヴァントを召還したのだ。

 しかし、彼は無駄に増長した。

 キャスター程度、そう思い柳洞寺に来たがそれは間違いであった。

 敵のサーヴァントであるキャスターは異常だった。

 魔術を使わずして―――いや、魔術とは到底言いがたいものを駆使してバーサーカーを一歩たりとて近づけさせることも無く、そして一言、神託めいた言葉を放った瞬間、バーサーカーのいた空間が拉げた。

 それと同時に魔術師の体の令呪は消えた。

「ひっ―――」

 男は―――黒い外套を来たキャスターは修羅がごとくゆっくりと近づいてくる。

 魔術師は無様にも石段の所までたどり着き、そこから転げ落ちる。

 

 魔術師の視界は反転し、彼の視界はシェイクされた。

 彼が下にたどり着いたとき、視界に朱が混じっていた。

血だ。走りすぎて血管が切れたんだろう。

 関係ない、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ。逃げろ。振り返る、キャスターは来ていない。

あの教会が救いだ、あのキャスターは異常だ。走れ、逃げろ、走れ、逃げろ、走れ、逃げろ。

 逃げろ、教会までだ、逃げろ、逃げろ、逃げ―――

 

 そこで男は気づいた。

 寺を出てからずいぶんと走った。

 今は橋を渡っている。この町でも特徴的な大きなこの橋を超えたらすぐに教会だ。

 しかし、走っても走ってもなかなか先が見えない。

 走る、走る、走る。

魔術を行使して加速しているにも拘らず先が見えない。

「おかしい、何でこの橋は―――」

 こんなに、長かっただろうか?

 ふと、視界の先に水溜りが見える。

 なにやら沢山のゴミがその紅い水溜りに散乱しているらしく、彼にとってそれは酷く歪で近づく気すら起こらない。

 だがその水溜りに一向に追いつくことは無い。

 どれだけ体を動かそうとも体は前に出ない。

 ふと、下を見る。

 己の足が無い。

 否、下半身が無い。

 見えるのは胸までで、おまけに肘から先も消えている。

「ヒッ」

 痛みを感じないことが怖く思えた。

「哀れですね。どこへ逃げ込もうとあなたがマスターである限り我がアインツベルンにとって邪魔であることは変わりません」

 無表情な、双子のようにそっくりな美しい聖女が二人。

 男は気づく。あの水溜りは己の血であり、あのゴミは己の無くなった体だった、と。

 あまりも強い攻撃で全部、前に吹き飛んだのだ。そしてここにいるのは―――

「さようなら、バーサーカーのマスター。呪うなら己の運と、この戦争を知ったことだけにしなさい。私たちを恨むのはお門違いもいいところですから」

 もう一人の女の言葉を聞き終わる前に男の意識は消えている。

 当然だ、男の体は半分以下に削げ、つい今しがたセイバー―――ヘラクレスにその思考を司る脳髄を握りつぶされたのだから。

 セイバーはその男の体から手を離し、放置した。

 彼女たちは己たちの居城に帰った。

 

 

 

 それから幾らか後。

 影が、伸びるように現れる。

 闇に浮かび上がる海月にも似た影法師。

 それは歩くだけで大気のマナを食い、同時に大地のマナをも食い荒らす。

その影は魔術師だった残骸を見るなり歓喜した。

その残骸の魂を魔力で無理やり回復させ、脳を一時的に機能回復させ、回復した男の意識の阿鼻叫喚を味わいつくし、それでも気が狂わないように改造された擬似脳で永遠ともいえる苦痛を味合わされ、最後は飴のように魂を舐めつくし、男の擬似脳髄を丸呑みする。

いままでの食事の中でも最高と言っていいほどの血肉と魔力だった。

それは心底満足し、その日は無駄な食事をすることもなく、闇に消えていった。

 

Interlude out

 

 士郎は凛の家にきた。

「藤ねえや他のやつに会いたくないしな」

 と士郎が言ったので凛の家に一時的に滞在することになった。

 セイバーは文句を言うかと凛は思ったけが、反対する理由も無い、とセイバーは言って地下の召還した魔方陣の上で休んでいる。

「で、士郎、あなたその体はどうしてそんな……」

「ああ、遠坂。覚えているか、俺がバーサーカーをセイバーと倒したときのこと」

ええ、と凛は答えた。

「あの時、手が黒くなっただろ、それと同じらしくてさ、俺が投影とはまた違う魔術を使った後、代償として体全体が黒く変色したんだ。同時に髪は色素が抜けた」

 士郎はそういうが、しかし凛はそのような魔術を聞いたことが無かった。

「で、士郎。体が変色した後、何か変化は?」

「投影、強化、ともに痛みが減り快適に行えるようになった」

「つまり、完全にそれのみに対する回路が開いた、と言うわけかしら?」

「おそらくは、そして俺は『世界』と契約した」

 その言葉を直接聴いたとき、やはり凛は何もいえなかった。

 もはや、アーチャーは士郎というのか確信ではなく未来と過去に置ける絶対事実と言えた。

「……遠坂。とりあえず休ませてもらう。そこのソファ借りるぞ」

 ええ、と凛は答えた。

 つまり互いの答えは明日出そう、ということだ。

 凛は自室に帰り、眠りについた。

 

「さて、何のようかな? セイバー」

 と、虚空に士郎は聞いた。

「いや、士郎と呼べばいいかな?」

 和服の上に黒いコートを着た青年は具現化し現れた。

「かまわない。さて、セイバー。質問がある。何故あの時こちらの武器を壊せた?」

「士郎、それは簡単に言えば宝具だよ。こちらの宝具は特殊でね」

「宝具、か」

「俺は残念ながらお前のマスターには従順であるつもりだ。俺の目的も聖杯じゃなくて一時でも多く現界することだからね。別に聖杯になんて興味が無いさ」

「変わった英霊だな、セイバー。前の聖杯戦争時、殆どの英霊が何かしらの形で例外はいたが、たしかに聖杯をほしがっていた。俺のサーヴァントもそうだった」

「ふぅ、士郎。君と凛の話を聞いている限り当時の凛は将来の君を召還したのだろう? 君は英霊であっても英雄ではないだろう? それと同じだ。こちらもただの英霊。英雄じゃないさ」

 自嘲的に哂いながらセイバーは言った。それは反英雄の可能性を孕んでいる悪霊の可能性すら示唆していた。

「そうか、では俺はもう寝るぞセイバー」

「ああ、マスターを―――凛を守ってやれよ」

 セイバーはそういい、部屋から消えた。

 士郎はため息をはき、窓から空を見た。

 月はもう沈んでいた。

 

 

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